相続税にも「時効」があるって知っていましたか?

「相続税って、払っていないまま放っておくとどうなるの?」

「申告しなければ、時間が経てば消えるものなの?」

実は、相続税にも「時効(=税金を払わなくてよくなる期限)」があります。

でも、ここで注意したいのは「ただ黙っていれば自動的に消えるわけではない」ということです。

たとえば、親から受け継いだ財産があっても、

• 相続の事実を申告していない

• 税務署から何の連絡も来ていない

• 財産の金額も不明確

といった理由で、「なんとなく大丈夫そう」と思い込んでいるケースは少なくありません。

しかし、それは知らなかったでは済まない”リスク**をはらんでいるのです。

今回は、「相続税の時効ってどういう仕組みなのか?」「何年で成立するのか?」「どうすれば安全か?」という点について、わかりやすく解説していきます。

相続税の時効は何年?基本ルールを整理しよう

まず最初に覚えておきたいのは、相続税の「時効」には2種類の考え方があるということです。

パターン①:申告・納付がされなかった場合の「時効」

被相続人が亡くなったあと、相続税の申告・納付をしないまま放置した場合、

原則として5年で時効が成立するとされています(国税通則法 第72条)。

この「5年」は、相続税の申告・納付が本来必要だった日(=相続開始から10ヶ月後)を起点とし、そこから数えます。

たとえば…

• 相続発生日:2020年1月1日

• 本来の申告期限:2020年11月1日

• そこから5年 → 2025年11月1日に時効成立

という計算です。

パターン②:悪質なケース(故意の隠ぺいなど)

ただし、ここで注意したいのが、「財産を意図的に隠した」などの悪質なケース

この場合、時効は7年に延長されます。

これは税務署側が「意図的な脱税」と判断した場合です。

たとえば、名義預金(親のお金を子どもの名義で隠す)や、海外資産の未申告などが該当します。

5年 or 7年、「放っておけば消える」は間違い

「時効があるなら、申告せずに時間が経つのを待てばいいんじゃない?」

…そう考えたくなるかもしれませんが、これはとても危険です。

なぜなら、相続税の時効はただ時間が経てば成立するものではないからです。

時効が成立するには、次の章で説明する「3つの条件」を満たす必要があります。

その条件を税務署側が阻止する方法も存在するため、「放置=時効成立」では決してありません。

相続税の時効が成立するための3つの条件

「相続税の時効は5年(悪質なら7年)」と聞くと、時間さえ過ぎれば税金を払わなくてよいと思ってしまいがちです。

しかし実際は、「時効のカウントが進まない」「時効が止まる(中断される)」ケースがいくつもあります。

以下では、相続税の時効が成立するために必要な3つの条件を見ていきましょう。

条件①|税務署から“通知”や“調査”を受けていないこと

税務署は、「申告漏れがありそうだ」と判断すれば、調査を行うことができます。

具体的には以下のような行動が、**時効の“中断”**を意味します。

• 調査通知書が届く

• 本人または相続人に問い合わせが来る

• 書類の提出を求められる

• 財産についての説明を求められる

このような行為が一度でもあると、時効のカウントがストップします。

調査が長引けば、その分だけ時効も延長されていきます。

条件②|“納税の意思がある”と見なされていないこと

たとえば、税務署からの問い合わせに対して、

• 「あとで払います」と口頭で答えた

• 書類を提出した

• 分割納付の相談をした

こういった行動も、「納税意思あり」と見なされてしまうことがあります。

すると、こちらも時効のカウントが止まる=中断されます。

これは、たとえ1円も支払っていなくても同様です。

言い換えれば、「知らないうちに時効を止めていた」というケースもあるのです。

条件③|時効が完成するまで、何も問題が起きないこと

相続税の時効が成立するには、最初の申告期限(相続発生から10ヶ月後)から5年(または7年)経つまで、完全に“ノータッチ”でいられることが前提になります。

でも現実には、

• 税務署が銀行口座をチェックして気づく

• 不動産の名義変更で相続がバレる

• 他の相続人が申告していて税務署が把握済み

など、どこかのタイミングで「足がつく」可能性は多いのです。

時効成立は「運が良かった」だけかも?

相続税の時効が完全に成立するケースは、実はごくわずか。

かつては「見つからなければセーフ」という時代もありましたが、現在はマイナンバー制度や銀行・法務局の連携が進んでおり、税務署の把握力はかなり高まっています。

仮に時効が成立したとしても、それは「制度的にOKだった」よりも、「たまたまバレなかった」可能性のほうが高いのが現実です。

「時効がある=安心」とは限らない理由

相続税に時効があることは事実ですが、それだけで「安心して放置していい」とは言えません。

むしろ、安易に放置することでより大きなトラブルやコストが発生するケースも多いのです。

ここでは「時効に頼るリスク」をいくつかの観点から整理してみましょう。

1. 税務署は“じっと見ている”

税務署は、あからさまに「あなたを監視しています」とは言いません。

でも、金融機関や不動産の登記情報などは、税務署が把握することができます。

たとえば…

• 銀行口座に大きな入金があった

• 不動産の名義変更が行われた

• 証券口座に高額な資産があった

こうした動きから、「この人、申告していないけど何か相続があったのでは?」と税務署が気づくことがあります。

つまり、静かにマークされている可能性はあるということです。

2. 一度見つかれば「過去の分」も遡られる

時効に頼って相続税を申告しなかった場合でも、

一度税務署の調査が入れば、5年分、または7年分さかのぼって追徴される可能性があります。

しかも、通常の税額に加えて

• 過少申告加算税(10〜15%)

• 無申告加算税(15〜20%)

• 延滞税(年利7%→1%に漸減)

といった**ペナルティ(罰金)**が上乗せされます。

「本来の相続税+加算税+延滞税」まで払うことになれば、時効を狙っていたほうが高くつくという逆転現象も起こり得ます。

3. ほかの相続人が“巻き込む”リスクもある

たとえば、兄弟のうち一人が申告していなかった場合。

もう一人が正しく申告していたとすると、税務署がそちらをきっかけに“全体の相続”に気づくことがあります。

また、「うちは揉めていないから大丈夫」と思っていても、将来、誰かがトラブルや借金で財産調査を受けるときに、過去の相続に注目されるケースもあります。

つまり、自分だけでなく、家族・兄弟・配偶者にまで迷惑をかける可能性があるのです。

4. 相続税の“追徴”は心身にもダメージが

相続税の追徴課税は、金額も精神的負担もかなり大きくなります。

• 「いまさら何年も前のことを…」

• 「家族に内緒にしていたのに…」

• 「相続したお金はもう使ってしまった…」

と、パニックに近い状態になる人も少なくありません。

事前に対処していれば、防げたはずのトラブルなのです。

「知らなかった」では済まされない時代

相続税の世界では、「知らなかった」「忘れていた」「みんなやっている」では通用しません。

とくに2020年代以降、税務当局のデジタル化が急速に進んでおり、「昔は見逃されていたこと」が見逃されなくなっています。

時効に期待して放置するよりも、最初から正しく申告・相談しておくほうが、結果的に安心・安全でコストも抑えられるのです。

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