2026.08.20
不動産購入前に知っておきたい「ハザードマップ」の見方
2026年8月中旬、千葉県では線状降水帯の影響で記録的な豪雨となり、「令和8年8月千葉豪雨」として気象庁が名称を定めるほどの大きな被害が発生しました。県内各地で道路の冠水や住宅への浸水が相次ぎましたが、被害状況を分析した調査では、実際に浸水被害が報告された地点の半数以上が、国や自治体が定める浸水想定区域の”外”だったことも分かっています。「ハザードマップで色がついていないから大丈夫」とは言い切れない——そんな現実を、改めて突きつけられる出来事でした。
不動産の購入や賃貸契約を検討する際、水害リスクの説明は宅地建物取引業法によって義務化されており、契約前に必ず説明を受ける機会があります。とはいえ、「説明されたけれど、結局どう判断すればいいのか分からなかった」という声も少なくありません。本記事では、ハザードマップの種類や見方、契約時にチェックすべきポイントを分かりやすく解説します。
ハザードマップの種類と確認方法
5種類のハザードマップと説明義務
ひとくちに「ハザードマップ」といっても、実は複数の種類があります。
- 洪水ハザードマップ:河川の氾濫による浸水リスクを示す
- 内水(雨水出水)ハザードマップ:下水道や水路の排水能力を超える豪雨による浸水リスク
- 高潮ハザードマップ:台風などによる海面上昇の浸水リスク
- 土砂災害警戒区域マップ:がけ崩れや土石流の危険性がある区域
- 津波災害警戒区域マップ:地震に伴う津波の浸水リスク
このうち洪水・内水・高潮の3つは「水害ハザードマップ」と呼ばれ、2020年8月の法改正により、不動産取引の重要事項説明で必ず説明することが義務付けられました。一方、土砂災害警戒区域と津波災害警戒区域は、これより前からすでに説明義務の対象となっています。つまり現在では、主な自然災害リスクについて、売買・賃貸を問わず契約前に説明を受けられる仕組みが整っているのです。
なお、土砂災害警戒区域には「警戒区域(イエローゾーン)」と「特別警戒区域(レッドゾーン)」の2段階があります。レッドゾーンは建物の構造規制がかかるほど危険性が高いエリアを指すため、区域名だけでなくどちらに該当するのかまで確認しておくと安心です。
国交省ポータルサイトで自分でも確認する
国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」を使えば、誰でも無料で全国のハザードマップを確認できます。
- 重ねるハザードマップ:洪水・内水・土砂災害・津波などのリスクを1枚の地図上に重ねて表示。住所を入力するだけで、その場所のリスクを色分けで確認できる
- わがまちハザードマップ:市区町村が作成した公式のハザードマップをそのまま検索・閲覧できる
浸水の「深さ」は色の濃淡で示されており、0.5m未満(床下浸水程度)、0.5〜3m(1階の天井付近まで)、3m以上(2階の軒下に達する規模)といった段階で表現されます。同じ「浸水想定区域」でも深さによって被害の重さは大きく異なるため、色がついているかどうかだけでなく、深さの区分まで確認しておきましょう。あわせて、過去の浸水実績を示す「浸水実績図」が公開されている自治体もあるので、参考にすると安心です。
また、同サイトでは周辺の標高や土地の高さも重ねて確認できます。「区域外だから安心」ではなく、周辺よりも低い土地ではないかという視点で見ておくと、より実態に近いリスク把握につながります。
地盤や土地の成り立ちも参考に
国土地理院のサイトでは、その土地がもともと田んぼや沼地だったかなど、地形の成り立ちを確認できる「治水地形分類図」なども公開されています。あくまで参考情報のひとつではありますが、ハザードマップとあわせて確認しておくと、より立体的にリスクを把握できます。
不動産会社の説明義務とチェックすべきポイント
重要事項説明での注意点
宅建業者は、契約前の重要事項説明において、市区町村が作成した水害ハザードマップ上での対象物件のおおよその位置を示す義務があります。これは売買だけでなく、賃貸借契約でも同様です。
ここで注意したいのは、「浸水想定区域の外にある」と説明された場合でも、リスクがゼロという意味ではない点です。ハザードマップは想定し得る最大規模の降雨を前提に作られていますが、想定を超える豪雨や、マップ作成後の地形変化・宅地開発などにより、区域外で浸水が発生するケースも実際に起きています。「説明を受けたから安心」で終わらせず、自分自身でも情報を確認しておく姿勢が大切です。
物件検討時にチェックしたい5つのポイント
- 洪水・内水・高潮のいずれかで浸水想定区域に入っていないか
- 想定される浸水の深さ(床下程度か、1階が水没するレベルか)
- 土砂災害警戒区域・特別警戒区域に該当していないか
- 最寄りの避難所とそこまでの避難経路
- マップの作成・更新時期(古い場合は最新版で再確認する)
これらは物件のパンフレットだけでは分からない情報です。気になる点があれば、契約前に遠慮なく不動産会社へ質問しましょう。
賃貸・購入それぞれで意識したいこと
賃貸物件を探す方が意識したいこと
持ち家の購入だけでなく、賃貸で部屋を探す際もハザードマップの確認は有効です。特に浸水想定区域内では、1階よりも2階以上の部屋を選ぶ、電気設備が高い位置にある建物を選ぶといった工夫で、被害を抑えられる可能性があります。分電盤や給湯器の設置位置は内見時に確認しておくとよいでしょう。また、管理会社や仲介会社に「過去にこの建物やエリアで浸水被害があったか」を直接尋ねてみるのも有効です。ハザードマップだけでは分からない、現場ならではの情報が得られることもあります。
リスクがある=候補から外すべき、ではない
浸水想定区域に含まれているからといって、必ずしもその物件を諦める必要はありません。建物の構造や階数、盛土の有無によって実際の被害は変わりますし、火災保険に水災補償を付けておく、家財を高い位置に置くといった対策でリスクを軽減できる場合もあります。加えて、お住まいの自治体が提供する防災情報アプリや緊急速報メールに登録しておけば、いざというときに早めの避難行動につなげやすくなります。大切なのは、リスクを知らないまま契約することを避け、納得したうえで住まいを選ぶことです。
まとめ
ハザードマップは「怖い情報を見るためのもの」ではなく、「暮らしを守るための判断材料」です。リスクの有無だけで一喜一憂するのではなく、浸水の深さや避難のしやすさ、対策の可否まで含めて総合的に判断することが、後悔のない住まい選びにつながります。契約直前になって慌てて確認するのではなく、物件探しの早い段階からハザードマップを見る習慣をつけておくと、比較検討もしやすくなるでしょう。